生前贈与の活用
今すぐできる相続税対策とは―――生前贈与を活用して節税
1、年間110万円までの生前贈与には、贈与税がかかりません。
生前贈与は、贈与された人が年間110万円までしかもらっていないなら、贈与税がかかりません。これを贈与税の基礎控除といいます。
年間110万円の生前贈与を、10年間続ければ1100万円、20年続ければ2200万円になります。相続人となる子が一人でも、その子の子(孫)にも生前贈与できますから、20年間で2200万円×2人=4400万
円も生前贈与できます。このよう贈与税の基礎控除額を利用して毎年生前贈与することを暦年贈与(れきねんぞうよ)といいます。
自分が元気なうちに、税金を払わずに子に財産移転できれば、相続税の節税になります。
暦年贈与をして節税する場合の注意点
A,贈与した事実の証拠を残すこと。
具体的には先ず贈与契約書の作成ですが、あげる側(贈与者)もらう側(受贈者)双方とも贈与契約書には住所氏名を手書きし押印をしてください。もらう側が未成年者(孫)の場合には親権者である両親が代理する形で結構です。
また贈与する財産が金銭なら、受贈者の名義の銀行口座に振り込んで、渡したことの証拠を残してください。
B,もらった人(受贈者)名義の銀行口座の通帳・銀行印は、贈与者が保管・管理をしないでください。また贈与者が受贈者名義の銀行預金を自由に使うこともしないでください。税務当局に名義借預金と疑われます。
C,金融資産が億単位である方は、暦年贈与の非課税枠にこだわらず、相続税の税率以下なら、相続税節税のために年間110万円を超える生前贈与を行うことも検討すべきでしょう。
2、相続時精算課税制度―2500万円の特別控除
相続時精算課税制度とは、一定の要件を満たす生前贈与に2500万円までの特別控除を認める制度であり、相続開始時に、相続時精算課税制度による生前贈与分と相続財産を合算して、相続税がかかるのか、相続税額はいくらかを計算します。
相続時精算課税制度は、贈与者が60歳以上の両親または祖父母、受贈者が20歳以上の子または孫という制限がありますが、この制度を利用して、生前贈与することは、相続争いを少なくする安全確実な財産分配方法の一つです。
遺言の方法では、遺言がいつでも撤回できることや方式の不備などで無効となる恐れがあることから、万全ではありません。
したがって、相続時精算課税制度を利用して、父親が長男に自宅土地建物を生前贈与すれば、父親の死後に自宅土地建物を誰が相続するかの争いが避けられます。もっとも、自宅の財産価値が大きいときは、相続による承継の方が節税できますので、「遺言プラス遺言代用信託」の方法が適切でしょう。
相続時精算課税制度の注意点
A,相続時精算課税制度は、これを選択すると暦年贈与制度が利用できませんので、注意してください。
B,相続時精算課税制度は、贈与額が2500万円を超えますと、超えた部分の金額に一律20%の贈与税がかかります。
C、相続時精算課税制度は、やり方を間違えると税金を多く払うことになりますので、注意が必要です。
(例1)悪いやり方の例
長男Aが父親Bと同居するために金5000万円のマイホームを購入し、購入資金の内金2500万円は相続時精算課税制度を利用して生前贈与を受けたとします。父親Bが亡くなった時の遺産に対する相続税を払わなければならない事案ですと、生前贈与分2500万円に対し相続税がかかります。
(例2)良いやり方の例
長男Aが父親Bと同居するために代金2500万円で土地を購入して、建物建築代金分2500万円を父親Bに出してもらい、土地を長男A名義、建物を父親B名義とします。
この場合、父親Bに建物を長男Aの相続させる遺言を書いてもらうのも一方法ですが、長男Aが安全確実に建物を取得するには、購入して数年後に相続時精算課税制度を利用して生前贈与を受ける方法があります。建物の贈与税評価額は、固定資産税評価額ですから、2500万円×60%=1500万円(固定資産税評価額)となり、生前贈与分が1500万円となり、金銭の贈与を受けるより相続税の節税できます。
D,相続時精算課税制度を利用して不動産を生前贈与する場合、登記費用(登録免許税等)と不動産取得税がかかります。不動産の相続では生前贈与より登録免許税が安く、不動産取得税がかかりません。
E,相続時精算課税制度を利用し生前贈与したときは、贈与した翌年3月15日までに贈与税の確定申告をしなければなりません。そうしないと、この制度の特別控除枠2500万円を利用できません。
3、贈与税の配偶者控除を利用し自宅を贈与
相続税では、配偶者の税額控除という節税制度がありますが、贈与税にも配偶者控除があります。
贈与税の配偶者控除を認める要件は、以下のとおりです。
A,婚姻期間が20年以上の夫婦であること。内縁関係の期間は含めません。
B,自分が住むための居住用不動産の贈与または居住用不動産を取得するための金銭の贈与であること。
金銭より不動産の贈与の方が、節税できます。土地は時価の80%位建物は時価の60%位と、通常時価より定額なので、節税できます。
もっとも生前贈与は、相続の場合より不動産登録免許税が高額であり、相続ではかからない不動産取得税が課税されます。
したがって、贈与税の配偶者控除により生前贈与する不動産は、相続税の配偶者控除を利用しても課税される場合に利用するなどの工夫が必要でしょう。
C,贈与を受けた翌年3月15日までに、贈与によって取得した国内の居住用不動産、または贈与を受けた金銭で取得した国内の不動産に、贈与を受けた人が実際に住んでいて、かつ引き続き居住する見込みがあること。
D,土地または借地権のみの贈与の場合、家屋の所有者が配偶者または同居の親族であること。
E.贈与税について申告を行うこと。
贈与税の配偶者控除を利用すれば、最高2110万円まで無税ですが、課税されない場合でも申告しなければなりません。
F,同一配偶者から一生に一度だけ受けられます。
相続開始前3年以内の生前贈与は、相続財産に加算されるのが原則ですが、配偶者に対する居住用不動産の生前贈与については、相続財産加算の対象から除外されますので、高額な遺産額が見込まれる場合は、相続税の節税方法になります。
また居住用の土地家屋が夫だけ名義であった場合、この配偶者控除を利用して生前贈与し夫婦共有にすることも、将来住宅の売却を検討しているなら、譲渡税の節税になります。
すなわ居住用不動産を売買して譲渡益が生じても、「居住用財産の3000万円特別控除」を利用して、譲渡税を節税できるのですが、夫婦共有にしておくと特別控除が6000万円まで利用でき、さらなる譲渡税の節税になるからです。
特別控除3000万円×夫婦2人=計6000万円
4、教育・住宅購入などの資金を、孫に生前贈与して節税
祖父母が、孫に生前贈与するのは、「親から子」「子から孫」と承継されるときに2回課税される相続税を1回分減らせるという意味で、節税効果があります。孫に対して高額な資金を生前贈与しても贈与税がかからない場合がありますので、利用を検討すべきでしょう。
① 住宅購入資金の生前贈与
住宅購入のための資金を贈与するときに、主に以下の要件があれば、1500万円までの贈与(2015年の贈与が対象)贈与税がかかりません。
A,贈与者は、父母または祖父母ですが、子に対し、住宅購入資金を贈与して住宅を所有させると、特定居住用宅地(小規模宅地等)の評価減の特例が利用できなくなることがあるので、注意してください。
B,贈与を受ける人は、贈与する人の直系卑属(子や孫など)であり、贈与する年の1月1日に20歳以上でありかつ所得金額が2000万円以下(給与収入なら2245万円以下)であることが必要です。
C,取得する住宅は床面積(登記面積)50㎡以上240㎡以下であって、一定の特別な関係にある人(配偶者・親族など)からの住宅取得・新築等でないことが必要です。
D,贈与を受けた翌年の3月15日までに住宅取得等の対価にあて、かつ同日までにその住宅を居宅に使用すること(遅滞なく使用することが確実と見込まれる場合を含む)が必要です。
② 教育資金の生前贈与
2015年末までの期間限定の措置ですが、一定の要件のもと、孫一人につき1500万円まで教育資金として贈与しても贈与税がかからない制度があります。なお、この制度は2019年3月末まで延長予定があるようです。
この制度は、非課税枠1500万円を、孫が30歳までに教育資金に使い切らなかった場合、残った金額について、贈与税がかかることに注意してください。
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この記事の監修者
弁護士・税理士・ファイナンシャルプランナー(AFP)
小林 幸与(こばやし さちよ)
〇経歴
明治大学法学部卒業、昭和61年に弁護士登録。現在は第一東京弁護士会所属の弁護士に加え、東京税理士会所属の税理士、日本FP協会認定AFP資格者。
日弁連代議員のほか、所属弁護士会で常議員・法律相談運営委員会委員・消費者問題対策委員会委員など公務を歴任。
豊島区で20年以上前から弁護士事務所を開業。現在は銀座・池袋に事務所を構える「弁護士法人リーガル東京・税理士法人リーガル東京」の代表として、弁護士・税理士・ファイナンシャルプランナーの三資格を活かし活動している。