相続税--税務調査の現状
1、税務調査を事前に知ることができる方法―書面添付
相続税の税務調査は、申告件数の20%から30%弱の割合で行われていますが、相続税の税務調査を事前に知ることができる方法があります。
相続税の申告にあたり、申告を担当した税理士が税務代理権限証書の提出だけでなく、税理士法33条の2に定める書面を添付しますと、予告無しで行われる税務調査でない限り、必ず税務調査の前に、関与税理士に意見聴取が行われます。
この意見聴取の結果、税務当局側の疑問点が解消できた場合、関与税理士に対し「現時点では調査に移行しない」旨の連絡があるとされています。
税理士法33条の2に定める書面を添付しての申告ですと、税務調査を受ける可能性が低くなるのです。
税理士法人リーガル東京では、相続税申告の場合ですと、受任した申告件数の90%以上に税理士法33条の2に定める書面を添付しております。
かつ税理士法人リーガル東京は、所得税申告等の場合も、必要に応じて税理士法33条の2に定める書面を添付して申告しております。
2、相続税の税務調査の数字
国税庁の発表によれば、平成25年7月から平成26年6月までの、相続税の実地調査(納税者の自宅に赴いて行う調査)の件数は、11,909件(前年12,210件)であり、このうち申告漏れなどが合った件数が9,809件(前年9,959件)となっています。東京国税局管内では、実地調査の件数が2826件(前年2789件)、このうち申告漏れなどが合った件数が2,133件(前年2,041件)となっています。
申告漏れ相続財産の内訳は、全国ベースでは、①現金・預貯金等1189億円(前年1,236億円)②土地412億円(前年560億円)③有価証券355億円(前年431億円)です。東京国税局管内では、①現金・預貯金等315億円(前年236億円)②土地99億円(前年126億円)③有価証券95億円(前年106億円)です。調査割合は、全国では申告件数の約23%、東京国税局管内では申告件数の約17%です。
実地調査の理由については、国税局及び税務署で収集した資料情報から、申告額が過少であると想定されるもの、申告義務があるのに無申告となっていると想定されるものに実施したとされています。
3、税務調査の流れ
相続税の税務調査は、以下の流れになります。
① 相続税申告書を税務署に提出
② 相続税申告書の審査
③ 税務調査の対象の選定
④ 税務署に呼び出して事後処理する事案と実地に調査する事案の振り分け
⑤ 実地調査する事案の事前調査
⑥ 税務調査の電話予告
⑦ 臨宅などの実地調査の開始
⑧ 反面調査などの補完調査
⑨ 調査の指摘事項の整理
⑩ 指摘事項について納税者・担当税理士へ伝達
⑪ 調査終了の連絡
⑫ 修正申告(職権更正)
⑬ 付帯税の賦課決定
4、税務調査の種類①―呼び出しによる是正
税務調査は、税務当局の裁量で行われますので、調査の方法には、いくつかのパターンがあり、その一つに税務署に来署を求めて是正させるという方法があります。
国税庁メールマガジン(創刊号)に、『所得税の申告件数は連年増加傾向にあるわけですが、これらの税制改正により所得税の申告者が増えますと確定申告の増加にとどまらず、その後の処理すなわち、還付手続、債権管理事務、滞納整理事務、誤った申告を是正するための事後処理事務といった確定申告後事務も増加します。』と記載されているのは、このような是正させる事後処理があることを示すものです。
この税務署に来署を求めて是正させるという方法は、あくまで税務調査の一環として行われるものなので、是正方法として修正申告書の提出があった場合、過少申告加算税が賦課されます。
これに対し、税理士法33条の2に定める書面を添付したことによって税務調査の実施前に行われる関与税理士との意見聴取における質疑などだけで、修正申告書が提出されたときには、過少申告加算税が賦課されないと解釈されています。
また税務調査のほかに、行政指導の一環として、提出された申告書の計算間違い、記載漏れ、法令の適用誤りなどの誤りがあるような場合、納税者側に自発的な見直しを要請し、必要に応じて修正申告書の提出を要請する場合があります。このような行政指導により修正申告書を提出した場合、過少申告加算税が賦課されません。
ただし、延滞税を納付すべき場合がありますし、当初の申告が期限後ですと無申告加算税として原則納付額の5%が賦課されます。
5、税務調査の種類②-実地調査
一般的に相続税の税務調査というと、納税者の自宅に出向いて行う「実地調査」をいいます。
実地調査は、通常の場合、以下の事項を通知して行われますので、この通知があったら、納税者は関与税理士との間で調査に対する対応方を相談しましょう。
ⅰ)実地調査を開始する日時
ⅱ)調査を行う場所
ⅲ)調査の目的
ⅳ)調査の対象となる税目
ⅴ)調査の対象となる期間
ⅵ)調査の対象となる帳簿書類その他の物件などの事項
相続税の税務調査は、国税局や税務署で収集した資料情報を基に、申告額が過少であると想定されるものや、申告義務があるにもかかわらず無申告になっていることが想定されるものなどに対し、実施されます。
実地調査には、「一般調査」と「特別調査」があり、特別調査は、一般調査より調査日数が長くなります。
6、税務調査の種類③-反面調査
反面調査とは、調査対象者(納税者)以外の者に対して実施される税務調査であり、取引先金融機関や証券会社などに対して行われるのが典型です。
反面調査も質問検査権に基づいて行われる調査です。
銀行調査では、相続開始前に引き出された預貯金の移動先、過去に引き出された預貯金等が何に化体したか、家族名義の預貯金の原資はどこから流れたか、といったことを調査されます。証券会社などの調査においては、証券会
社などにおける取引先ごとの管理方法、取引先口座等から株式等の取得原資など名義株の疑いがないか等を調べるようです。
7、税務調査の種類④-現況調査
相続税の税務調査のほとんどは、事前の通知をして行われる任意調査ですが、任意調査でも現況調査があります。
現況調査は、調査先に出向いて、相続財産として経済的価値あるものを調査しますので、現金・家族名義を含む預貯金通帳・株券などの有価証券・不動産売買契約書・印鑑・家の中の書画骨董類などは、求めに応じて提示できるよう用意しておくべきでしょう。
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この記事の監修者
弁護士・税理士・ファイナンシャルプランナー(AFP)
小林 幸与(こばやし さちよ)
〇経歴
明治大学法学部卒業、昭和61年に弁護士登録。現在は第一東京弁護士会所属の弁護士に加え、東京税理士会所属の税理士、日本FP協会認定AFP資格者。
日弁連代議員のほか、所属弁護士会で常議員・法律相談運営委員会委員・消費者問題対策委員会委員など公務を歴任。
豊島区で20年以上前から弁護士事務所を開業。現在は銀座・池袋に事務所を構える「弁護士法人リーガル東京・税理士法人リーガル東京」の代表として、弁護士・税理士・ファイナンシャルプランナーの三資格を活かし活動している。