贈与税の配偶者控除
贈与税の配偶者控除は夫婦間の居住用不動産について税金を控除する仕組みです。贈与税の控除として年間110万円の控除枠は広く知られていますが、この贈与税の配偶者控除はあまり知られていないようです。控婚姻期間が20年以上の夫婦が一生に一度しか使えない、という前提条件のハードルが高いため、活用件数が少ないと思われますが、条件が適合すれば2000万円の非課税枠が存在しますので活用して損はありません。相続税に頭を悩ませる前に、結婚期間が長い方はぜひ一度税理士に相談してみてはいかがでしょうか。
この控除の背景は、長期間一緒に住んだ夫婦のどちらかが亡くなった場合に、相続税を支払う現金が少なくてその自宅を売らなければならない、といった事態を避けるために作られた控除と推察されます。特に都市部のサラリーマン家庭などでは、一見大きな自宅をもって資産家に見えても、その資産の大半は土地であり、現金には余裕のない家庭がたくさんあるのです。例えば子供がいない夫婦が居宅としてはやや大きな、6000万円の評価の居宅を夫婦半々で持っていたとします。夫の長期入院で現金を使い果たしたところで夫が亡くなった場合、3600万円の基礎控除を使っても2400万円が課税対象になりますので、税金は15%の360万円、さらに50万円控除を使って310万円が相続税を支払うのに必要な現金となります。現金があればいいのですが、この分をうまく調達できなければ、急いで住み慣れた自宅を売却する、という必要が出てきてしまうのです。亡くなってから税理士に慌てて相談してもあまり効果的な節税方法は出てきません。相続税があることで住み慣れた我が家から出ていくことになってしまうのです。こういった場合を避けるためにあらかじめ夫婦間で贈与した場合を考えてみましょう。夫の持ち分3000万円をのうち、2000万円を贈与し、贈与税の配偶者控除枠を活用したとします。そうすると無税で夫から妻に居宅の持ち分が移ります。無税ですので当然お金を出す必要はありません。さらにその後夫が亡くなっても、妻は残る1000万円の評価額の自宅を相続するだけですから、こちらも相続税の控除内に収まり、税金を払う必要がありません。つまり同じ相続をしたにもかかわらず、あらかじめ一部をきちんと贈与していれば、相続税や贈与税を支払わなくてもよいこととなるのです。注意点としては不動産登記費用や司法書士費用など不動産の贈与に関わる通常の費用は発生しますのでその点はご理解ください。あくまで今回のケースでは相続税と贈与税の税額について比較しています。
通常の贈与ですと、死亡前3年以内に贈与された資産は、相続財産に含められます。自分が体調不良となって、慌てて贈与をして相続税を免れようとしても間に合わないことが多いのです。ところがこの配偶者控除枠は相続財産には含まれない点が大きな利点になるのです。活用条件が夫婦のみ、同じ配偶者からの贈与については生涯一度のみなどと非常に厳しくはありますが、長い間一緒に夫婦が住んだ家を何とかして残そう、という趣旨の控除制度のため、対象となる方には非常に大きな枠となっています。この枠を活用することで、相続税を支払うために、自宅を売る羽目になった、という不幸な例はだいぶ避けられるのではないでしょうか。もっとも、この枠を活用可能か、他の特例と合わせてどちらが得か、などなどの個人で細かな事例を判断するのは難しいと思いますので、相続税について不安に思っている方や、自分がこの控除枠の対象ではないかと思われる方は是非一度税理士に相談してはいかがでしょうか。